第2683話・・・元監督・元教頭の視点(71)
2017年 01月 13日
今、学校現場では「部活指導」の問題が取り上げられている。教員の長時間労働の実態を改善するためにガイドラインを制定するなどしている。特に中学校では、学校全体として、勝利至上主義からの脱却を目指しているところが見られるようになってきました。十年前には考えらなかったことです。当時は部活指導は、顧問の独裁的な空間で校長・教頭でも物を申せない雰囲気がありました。しかし、時代は確実に変わってきています。
今回、私が話題にしたいのは、ほとんどの教員は、部活のやりすぎの弊害を感じ、変えようとしています。しかし、いまだに強豪と言われる部活の中には、無理・無茶・過激に指導しているところも珍しくありません。かつての私がそうだったように
それでは、なぜ、部活を命とするような先生が後を絶たないのでしょうか。それは、部活には、危険な魅力があるからです。
バレーで負け続ているとき、子供も親も私の言うことなんて知らんぷりがほとんどでした。どんなに一教員として一生懸命に学級経営をして、授業をしてもあまり評価されませんでした。「いつも負け続けている奴の言うことなんか聞いてられるか」、こんな雰囲気が漂っていました。かなりの屈辱でした。
しかし、バレーを勉強するようになると少しずつ結果が出るようになってきました。勝つとおもしろくなって、もっと勉強するし、練習時間も増えるようになります。このころのことを振り返ると・・・
・勝つと子供も親も好意的に接してくれるようになる。
・子供の「はい」という返事、この人についていけば勝てるかもと
いう雰囲気がさらに自分をバレーへとのめり込ませた。学級担
任としては味わえない経験
・優勝なんかするともっとその雰囲気は過激に・・・。
・今まで挨拶してくれなかった親たちが「先生、お茶どうぞ」なんて
寄ってくる。また、弁当も差し入れてくれたりと、いたれりつくせり
の接待
・優勝後の飲み会なんてなんと居心地がよいものか。賞賛の嵐。
こうなると、もう、部活指導は自分の存在を世の中に認めさせるような存在になります。もちろん、ここまでくるまでには、相当な勉強、そして、自分の時間を費やさなくてはいけません。
しかし、このサイクルは、「部活中毒」といえるものです。部活指導が薬物と同じような「快楽を得る」ためのものになっていくのです。薬物を使用続けると、一瞬は快楽に浸ることができます。しかし、いつかは破滅します。私は部活指導とは、薬物中毒と同じようものだと思います。
ただ、こういった危険な状況に警鐘を鳴らしてくれる人に出会えるかどうかがターニングポイントになると思います。
もちろん、私の場合は自然体バレーとの出会いで、部活中毒から脱却することができました。また、一番、近くにいる妻からも「お父さん、やっていることおかしいよ」と指摘されることもありました。
例えば、優勝後の子供と親による祝賀会で、子供たちの発表がありました。そこで、子供たちが「先生、もっと厳しい練習で追い込んでください」と要求することがありました。追い込まれることを美徳とする風潮があったバレー界ではよくある光景でした。けど、知らない人が見ると、これは異様な関係にうつります。
私が出会った実績のある指導者が破滅への道へと転がり落ちていく過程には、
・その競技の指導法を練習するようになる
・結果が伴うようになる。
・さらに勉強し、練習時間も膨大になる。
・選手と保護者からの信頼獲得
・校内での立ち位置・同僚からも認められる。
・一部の熱狂的な保護者が支えてくれる。
・親からの過剰な接待
・周囲にイエスマンしかいなくなる
・体罰などの独裁的な指導
・高校の先生とのつながり・卒業生の進路保障
・益々、誰も何もいえなくなる
・けがをさせたり、精神的に崩壊させたり、最悪の場合、事故死・
自殺といったとりかえしのつかない不祥事発生
こうしたサイクルに陥いっている人は周囲にいませんか?
もしいたら、管理職に相談したり、周囲に訴えたりして、何かしら声をあげないと、不祥事という最悪のシナリオを迎えてしまいます。しかし、部活指導で不祥事が発生した学校を見ると、そこには、何も言えない「傍観者」の先生たちが多数存在しています。この構図をこわさないと悲劇は繰り返されると思います。
私は部活指導にのめり込む教師は、一度は通る道だと思います。大切なことは、「中毒」にならないような体制を学校全体で構築していくことです。
勝利至上主義、勝てるなら何をしていもよい、こういった競争原理を教育現場から取り除いていくことこそ、部活指導には必要だと思います。
部活中毒になっている先生、自分で立ち止まって破滅への道を歩んでいることを気づいてください。
傍観者の先生へ、仲間から破滅する先生を出さないでください。
今こそ「共同体感覚」が求められているのだと思います。