「あんな偉い人でも、 自分を見ている恐い人がいなく なると失敗するんや」
松下幸之助の言葉である。以下「二人の師匠」から抜粋。
昭和42年(1967年)の7月、大阪空港の待合室で高橋荒太郎副社長から「日本ビクターへ行ってもらう」と言われた。
11月に入って、創業者(松下幸之助)に京都の真々庵に招かれた。南禅寺の近くにあり、綺麗に手入れされた庭とその背景になっている東山連峰が美しかった。
古風な茶室に二人だけ。創業者は着物姿で茶人の風格があった。私は茶をいただきながらいろんな話を聞いた。
当時、日本ビクターはまだ増収増益だったので、なぜ私が日本ビクターに行かねばならないのかを尋ねた。創業者は
「日本ビクターは、一見格好がついているように見えるが、中身は病気にかかっているのだ。その治療の手伝いに行ってもらうのだ」と言った。
次に「平田君、豊臣秀吉もナポレオンも100年か200年に一度生まれるかどうかという偉い人物だな。あんな偉い人が二人とも末路は失敗したな。なぜだと思う」と聞いた。
突然のことで困ってしまった。思いつくよすがもなく、
「分かりません」と言うと、「それはうしろに恐い人がいなくなったからや。あんな偉い人でも、自分を見ている恐い人がいなくなると失敗するもんや」。
この言葉はその後も強烈に私の脳裏に残った。