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by kusanokenji
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第1374話・・・印象に残っている話 2

~叱り叱られの記(後藤清一)~より

【一人も解雇したらあかんぞ】-2
 翌日から、井植氏を先頭に、工場幹部は、勇躍不況の街中に散った。
何としても売る。
熱意、火の玉と化して、世間の沈滞した空気をよそに恐ろしいほどの気迫がみなぎった。
わずか2ヶ月で、あれほどの在庫が、羽根が生えたか、きれいさっぱりカラになった。
やればやるもんやな。
社員一人ひとりの顔に、未曾有の不況を突破していく歓喜さえ伺えた。
やがて半日創業中止。会社を挙げて殺到する注文の消化に追われる。

クビ!いやな言葉だ。ゆえなく解雇されることに対する恐怖感は、
いつの時代の労働者の胸底にもひそむものだ。
まして、大恐慌。
「松下と言う会社は、人を大事にするらしい」。
噂はパッと広がった。
 私は考える。
昭和4年、松下は企業として労働者に回答した。
人間尊重。
この四文字は、松下繁栄の根本に確立されたものである。
不況の中で、松下の従業員は、総じて明るい顔をしていた。
私の瞼に今も焼きついている。
by kusanokenji | 2010-04-22 10:25 | ■連載“日々努力”